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アートのある生活 ―すこやかな情操を育むために― 序
水間敏隆

 子育てはいつの時代にも親にとっては切実なもの、そして不安なものです。「天才児を育てる◯◯法」「究極の××子育て法」「子育てから解放される△△教育」などなど、ちまたの書店にはこの手の書籍が満ちあふれ、少子化に伴い教育産業もかつてない程の隆盛を極めています。しかしながら、犯罪の低年齢化やゲーム依存症の爆発的な増加など、親の心配は絶えることがありません。愛する我が子に対し、人生の長い道程の苦難に打ち勝つ力をどのようにして育んでいくのか。知識の詰め込みだけではどうしようもないことは、みなさん重々承知なのです。その知識以外の何かとはいったいなんなのでしょうか。このコーナーでは、子育てにおける芸術の役割を、特に美術にしぼりながら皆様と考えていきたいと思います。

目の役割

 まず最初に、目の影響について考えてみたいと思います。実は人間の五感(感覚)の7割から8割以上は目から入ってきます。目の情報は、人間の顕在意識の中で反応しています。それと対象的なのが耳です。睡眠学習や速聴など潜在能力の開発には人間の自覚を超えて入ってくる耳を使います。見たくない時には大脳が目を閉じよと指示を出します。耳にはそんなことはできません。ですから逆に、目を開けている時は、大脳がフル回転して記憶しているわけですから影響力が弱いはずがありませんね。
 皆さんは「ゲーム脳」という言葉をご存知ですか。これは日本大学の森昭雄教授が著した『ゲームの脳の恐怖』(NHK生活人新書)という本が発刊されるに及んで一気に広まった言葉です。ゲームをしている子供の脳波が痴呆症患者の脳波と酷似していることから、ゲームをすると脳が壊れてしまうという内容が書かれています。脳が壊れてしまうという極端な話は眉唾物ですが、ポケモンのテレビを見ていた子供700人以上が口から泡をふいて倒れたことも事実なのです。とにかく、目からの情報は相当に大きな影響を人間の身体に与えることだけは確かなようです。文部科学省ではこのことを受けて、2002年から「『脳科学と教育』研究に関する検討会」など様々な研究プロジェクトを開始しています。
 皆さんは、神戸の中学生が起こした異様な幼児殺害事件を覚えておられるでしょうか。この中学生はいつも目にしていたのがホラー映画でした。目からの悪影響が少なからず神戸の事件を引き起こした大きな要因になっていたことは間違いないでしょう。

幼少期の子供の脳

 それでは、目からの刺激がどのように脳に影響を与えるのでしょうか。まず、幼少期の脳の成長から考えてみましょう。脳にはニューロンという神経細胞があります。そしてその結合部分をシナプスといいますが、生後8カ月までにニューロンあたりのシナプスの数がピークに達し、その後は減少して3歳までに大人と同じ数になることがわかっています。そこで、人間の視覚野で考えますと、生後8カ月までが臨界期(ある行動の学習が成り立たなくなる限界の時期)ではないかと考えられているのです。
 もしそうであれば、この幼少期の過ごし方がとても重要になることが解ります。また、よく使う神経回路のニューロンが鞘が厚くなるように生成され、使用しない回路は弱くなっていくようなのです。このような事実を考えると、どうも、すべてに「時」というものがあるようなのです。
 ですから幼少期の子供に何を見せるのか、ということは一生を決めるといっても過言ではありません。このような理論を元に日本では教育産業が大流行りです。「早教育」という言葉が一昔前に流行りましたが、これもそのような事実をもとにしています。しかしながら、この「早教育」は実は180年も前にドイツで提唱され、日本でも大正時代にはかなり研究がなされました(もちろん脳科学はまだありませんでしたから神経回路の話ではありませんが)。そして、今から100年も前にこの早教育の弊害も強く指摘されるようになったのです。何がよくて何がよくなかったのか。この分かれ目が芸術を理解するかどうかにかかわってくようなのです。

 さて、次回からはまず、この「早教育」を足がかりに、子供の情操を育むとはどういうことなのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

(THE ART2007年Vol.2掲載、美術研究家)
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